シンポジウムの前半部では、リモートセンシングデータを利用した地震断層の位置とその変位量の把握、および斜面崩壊地の判読について報告された。後半部では、現地調査の速報的な内容が主体で、GPSとGISを活用した地震断層の位置とその変位量の調査、斜面崩壊地の調査、地震断層近傍の家屋被害の調査、などの詳細が、写真と共に報告された。また、一部の発表はポスター展示としても報告がなされた。 当日は約100名の参加者があり、うち全体の約1/4にあたる27名が非学会員であった。 |
2005年パキスタン地震の発生源となった活断層の認定 熊原康博(広島大総合地誌研究資料センター)・中田 高(広島工業大) 2005年10月8日に発生したパキスタン地震は,インド−ユーラシアプレートの衝突による南北性圧縮応力場のもとで,活断層が再活動して発生したものである.我々は,地震直後から,既に保有していたCORONA偵察衛星写真を解析し,地震被害,土砂災害やSAR解析による地殻変動量等の分布パターンと調和する長さ約60kmにわたる活断層を発見した.現地調査によると,我々が確認した活断層に沿って地震断層の一部が発生したことが明らかにされている.本発表では,大地震をもたらした活断層の特徴について議論し,あわせてCORONA偵察衛星写真の地形学的研究への有効性についても紹介する. |
衛星画像から地表断層変位を探る 宇根 寛・熊木洋太(国土地理院) パキスタン北部地震は,M7.6という規模の地震が内陸のごく浅い震源で発生したことから,地表地震断層などの変位地形の出現が予想された.地震直後から,インターネットに,IKONOS,QuickBirdといった高解像度衛星画像が公開された.これらの画像は単画像であることから,地表地震断層などの直接的な認定は難しいが,地震前後の比較や他の情報との併用により,変位地形である可能性が高い地形を認定することができた. |
SAR解析による地殻変動量と地震断層の推定 藤原 智・飛田幹男・佐藤 浩・小沢慎三郎・宇根 寛(国土地理院) 地殻変動の面的分布を求めることで地震時の地下の断層の位置とその動きを推定することができる.我々は,ENVISATの干渉SAR及びSAR画像のマッチング技術を用いて地殻変動を面的かつ詳細に求め,断層モデルも作成した.地殻変動は全長約90kmの帯状に広がり,地震断層推定位置は,既存の断層(中田・熊原[2005])に沿ってつながっており,変動の向きなども一致している. |
衛星画像解析による斜面崩壊 佐藤 浩・小荒井 衛・宇根 寛・藤原 智(国土地理院) 2.5m解像度のSPOT5パンクロ画像でステレオ視して,パキスタン地震で発生した斜面崩壊の分布を判読した.その結果,斜面崩壊は既知の活断層に沿うように北東側(上盤側)に集中していること,そして,ムザファラバード北部で多発した大規模な斜面崩壊は,ENVISAT/SAR画像解析で明らかになった著しい隆起箇所(隆起量約4m)と一致していることが判った.現地調査によると,判読によりマッピングした斜面崩壊には,多数の表層崩壊が含まれているようである. |
2005年パキスタン地震の地震断層の現地調査 金田平太郎・粟田泰夫(産業技術総合研究所)・堤 浩之(京都大)・中田 高(広島工業大) 2005年10月8日にパキスタン北部で発生した地震(マグニチュード7.6)の地震断層の全容を現地調査によってはじめて確認した.地震断層の主要部は既存の活断層に沿って出現し,確認した地震断層の長さは約65km,最大の変位量は上下成分で5.5m,水平成分を含め約9mという大きなものであった.このうち,北西部から中部にかけての主要部の約50km区間は逆断層成分が卓越する変位量の大きな地震断層で,わずかな右横ずれ成分も認められた.南東部では,地震断層の連続性は不明瞭であるが,山間部の2カ所において数10cm以下のわずかな右横ずれ変位を伴う地震断層を発見した. |
地すべり・斜面崩壊の現地調査 宮城豊彦(東北学院大)・八木浩司(山形大)・丸井英明(新潟大)・梅村 順(日本大)・内山庄一郎(防災科学技術研究所) ムザファラバードとJhelum川,Hattian地すべりを視察したので概要を報告する.@地すべり・地すべり地形共に現地には広く存在し,今回の土砂災害も,多くがその位置で発生した.A斜面は利用され多数の住居があり,中越地震の旧山古志村と同じ様相が展開していた.B最大のHattian Landslideは,延長2km,最大幅700mで堆積土砂厚は約100m,二つの地すべりダムを形成した.CHattian 地すべりの周辺,震源断層と思われる位置,その他にキレツが多数発達した不安定土塊が広く存在する.雨期の地すべり災害が懸念される. |
2005年パキスタン地震の地震断層と家屋被害 中田高(広島工業大)・粟田泰夫・金田平太郎(産業技術総合研究所)・堤 浩之(京都大) 2005年パキスタン地震では,家屋被害が地震断層近傍の幅狭い地域に集中的に発生したという特徴がある.被害の典型例として挙げられるバラコット旧市街地では,撓曲崖斜面に位置していた全ての家屋が倒壊し,長さ約500m・幅100−150mの狭い範囲で,死者1661名(死亡率85%)に達した.また,既存の断層崖斜面の頂部では,引張性の地割れが発生し多くの家屋が倒壊した.このような家屋被害は,活断層との密接な関係を示すもので,「活断層直上」に家を建てることの危険性を如実に物語るものであった. |