地理学評論 Vol. 97, No. 4 2024年 7月 - 日本地理学会

●――論 説
「加治木のくも合戦」参加者が持つ民俗知の体系 岩月健吾・223-251

 

●――書 評
近藤純正:身近な気象のふしぎ(松山 洋)・252-253

渡辺悌二・白坂 蕃編著:変わりゆくパミールの自然と暮らし──持続可能な山岳社会に向けて
 (渡辺和之)・254-255

M.ジェイン・G.バレンタイン・S.L.ホロウェイ著,杉山和明・二村太郎・荒又美陽・成瀬 厚訳:
 アルコールと酔っぱらいの地理学──秩序ある/なき空間を読み解く
 (青木隆浩)・256-257

 

太田陽子先生のご逝去を悼む・260‒262

 

地理学関係博士論文要旨(2023年度)・262-267

 

学界消息・268-269

日本地理学会春季学術大会および臨時総会・春季代議員会記録・270-278

会  告・表紙2,3 および279-281

 2024年日本地理学会秋季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2,3

 

論説

「加治木のくも合戦」参加者が持つ民俗知の体系

岩月健吾
名古屋大学大学院

かつて日本各地でみられた季節の自然遊び「クモ相撲」は,第二次世界大戦後の経済成長の中で,社会・自然環境の変化を背景に,多くの地域で衰退・消滅してしまった.しかし,関東,近畿,四国,九州の一部地域では,クモ相撲が行事として現在も存続している.本研究では,鹿児島県姶良市旧加治木町地域のクモ相撲行事を事例に,参加者が持つ民俗知の構造を明らかにした.また,クモの持続的利用と民俗知の関係を考察した.参加者が持つ知識は,クモの採集,飼育,試合,返還の4段階の活動から形成されており,クモの入手・利用について,多様な知識が機能していた.参加者の視野は,クモの生存を支えるほかの動植物にまで広がっていた.各段階における知識は独立したものではなく,相互に影響を与え変化する弁証法的な構造を有していると考えられた.環境が変化する中,現地では,クモと共に生きる術が生産され続けており,この点はクモ相撲行事の意義として指摘できる.

キーワード:コガネグモ,クモ相撲,民俗知,環境変化,鹿児島県

(地理学評論 97-4 223-251 2024)