●――短 報
スキー行事によるスキーリゾートの存続の可能性――長野県茅野市車山高原を事例に――
名倉一希・231-250
伊能忠敬の地図作成過程における星測補正
野上道男・251-257
歴史的交通路における歩行時の生理的負担度の定量的評価――江戸時代の東海道箱根峠東坂を事例に――
中田輝男・258-272
●――書 評
福本 拓:大阪のエスニック・バイタリティ──近現代・在日朝鮮人の社会地理
(小泉 諒)・273-274
日本陸水学会東海支部会編:身近な水の環境科学 第2版(松山 洋)・275-277
小疇 尚:ヨーロッパのハイマツ帯(漆原和子)・278-280
学界消息・283-284
会 告・表紙2 および285-290
2023年日本地理学会秋季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2, および285-286
スキー行事によるスキーリゾートの存続の可能性――長野県茅野市車山高原を事例に――
名倉一希
海城中学高等学校
本稿ではスキー大会や研修会などのスキー公式行事がスキーリゾートの存続に影響しうる可能性について,長野県茅野市車山高原を事例に考察した.日本におけるスキー観光は1990年代初頭までのスキーブーム期後に急衰した.車山高原も同様の衰退がみられ,現在は夏季観光が中心である.しかし,車山高原において長年開催されてきたスキー公式行事の参加者が,大会に向けた練習や定期的な行事のために定宿を持ち,リピーター化する例が確認された.彼らは宿泊施設オーナーとの関係を築き,サービスや経営に自信ややりがいを与えている.また,彼らを受け入れてきた宿泊施設のオーナーも,スキーヤーであることが多く,自ら行事を開催している事例もみられた.スキー公式行事をきっかけに毎年安定した宿泊需要が見込めたり,オーナーによる行事開催があったりする環境は,車山高原のスキーリゾートとしての性格を存続させている.
キーワード:スキー,観光,リピーター,スキー競技大会,車山高原
(地理学評論 96-3 231-250 2023)
伊能忠敬の地図作成過程における星測補正
野上道男
東京都立大学名誉教授
伊能忠敬は,導線測量の進行中に星測が行われると導線測量で得られた地図上の座標値(x, y)を星測の成果で補正した.星測で得られた緯度値は度法(緯度差1度=28.2里,大図上で101.52寸)によって座標値Yに換算された.しかし経度の観測はできなかったので,星測点の座標値XはxY/yであるとする以外に方法はなかった.導線測量で得られた導線は,星測点(X, Y)付近で滑らかになるように,さかのぼって補正されたことがわかっている.星測による補正を受けた導線は連結接合され,大図の部分図となる.
キーワード:伊能忠敬,導線測量,星測,度法,座標値補正
(地理学評論 96-3 251-257 2023)
歴史的交通路における歩行時の生理的負担度の定量的評価──江戸時代の東海道箱根峠東坂を事例に──
中田輝男
法政大学大学院生
歴史的交通路における地形からみた経路選択の要因について,先行研究では全体距離や最高点標高を示す程度であり,定性的な議論であった.本稿では,道路の地形特性に起因する歩行時の生理的負担度によって,複数の経路を定量的に比較評価する方法を提案する.地理院地図や数値標高モデルを用いて対象経路の距離や標高,勾配を計測し,設定条件での歩行速度や所要時間を算出する.生理的負担度の算出には運動生理学の知見を参照した.適用事例として,江戸時代の東海道箱根峠東坂で湯本から箱根に至る湯坂道,旧街道,温泉道の3経路を比較した.道路の地形特性に起因する生理的負担度は,旧街道が最も小さく,湯坂道は勾配が大きく,温泉道は距離が長いことで大きな値になった.旧街道が選択された一要因が,生理的負担度の違いによることを示唆する結果であり,本方法は,生理的負担度の評価という視点から,歴史的交通路選択の議論に寄与する可能性がある.
キーワード:歴史的交通路,経路選択,東海道箱根峠,生理的負担度,運動生理学
(地理学評論 96-3 258-272 2023)