地理学評論 Vol. 96, No. 4 2023年 7月 - 日本地理学会

●――論 説
糸魚川–静岡構造線活断層系白州断層の平均変位速度と完新世後半の古地震 山中 蛍・後藤秀昭・291-315

 

●――書 評
牛垣雄矢:まちの地理学──まちの見方・考え方
 (加賀美雅弘)・316-318

熊原康博・金田平太郎・堤 浩之編:2016年熊本地震に伴う地表地震変位
 (前杢英明)・319-320

A.カッタルッツア・P.サンテス著,太田佐恵子訳:地図で見るバルカン半島ハンドブック
 (高木彰彦)・321-322

今井英文:ウォークラリー巡検──生徒主体の巡検学習(川久保篤志)・323-324

小野有五:「新しいアイヌ学」のすすめ──知里幸恵の夢をもとめて(小泉武栄)・325-326

小泉武栄:日本の自然風景ワンダーランド──地形・地質・植生の謎を解く(中村洋介)・327-328

大槻恭一・久米朋宣・笠原玉青編:森林水文学入門(松山 洋)・329-330

荒又美陽・明治大学地理学教室編:東京の批判地誌学(加藤幸治)・331-333

杉江あい:カースト再考──バングラデシュのヒンドゥーとムスリム(浅田晴久)・331-336

 

地理学関係博士論文要旨(2022年度)・337-342

 

学界消息・343-345

日本地理学会春季学術大会および臨時総会・春季代議員会記録・346-354

会  告・表紙2 および355-360

 2023年秋季学術大会のお知らせ(第3報)・355-356

 

論説

糸魚川–静岡構造線活断層系白州断層の平均変位速度と完新世後半の古地震

山中 蛍・後藤秀昭**
広島大学大学院生・日本学術振興会特別研究員,**広島大学

糸魚川–静岡構造線活断層系の南部区間に位置する白州断層の地形地質調査を行い,平均変位速度と,最近2回の古地震イベントの発生時期および変位量を明らかにした.尾白川右岸地点においては,過去9,000年間の平均変位速度は段丘面の形成年代と上下変位量から0.56 mm/yrと推定された.トレンチ調査によって最新活動時期は2,110–1,640 cal BP, 1回前の活動時期は4,280–2,990 cal BPと推定され,上下変位量は最新活動で1 m, 1回前の活動で0.5 mであったことが明らかとなった.周辺の活断層の活動時期との対比から,最新活動は糸魚川–静岡構造線活断層系の中南部~南部区間が同時に活動した可能性が高いと考えられる一方,1回前の活動は白州断層単独の活動であった可能性が考えられ,活動区間の長さの違いが地震時変位量の違いに対応することが示された.最近2回の活動間隔は従来の研究の推定の半分程度となる880~2,640年であり,最新活動からの経過時間はこの活動間隔に匹敵することが明らかになった.

キーワード:活断層,変位地形,平均変位速度,トレンチ調査,古地震,糸魚川–静岡構造線

(地理学評論 96-4 291-315 2023)