地理学評論 Vol. 95, No. 3 2022年 5月 - 日本地理学会

●――会長講演
空間情報技術が導く地理学方法論の発展──衛星画像を用いた途上国の都市化研究を例に──

 村山祐司・169-193

 

●――論 説
近代移行期の京都における祇園祭山鉾行事の存続要因──都市–祭礼の関係性の再考──
 佐藤弘隆・194-220

 

●――書 評
松宮邑子:都市に暮らすモンゴル人──ウランバートル・ゲル地区にみる住まい空間
 (宮内洋平)・221-222

福宿光一:論集 日本の木炭生産地域──(西野寿章)・223–224

桐村 喬編:ツイッターの空間分析(小口 高)・225-226

矢野桂司:GIS──地理情報システム桐村 喬)・227–228

G. シャマユー著,平田 周・吉澤英樹・中山 俊訳:人間狩り──狩猟権力の歴史と哲学
 (荒又美陽)・229-231

上野和彦・小俣利男編:東京をまなぶ(高柳長直)・232-233

米家泰作:森と火の環境史──近世・近代日本の焼畑と植生(佐藤廉也)・234-235

久保倫子・由井義通編:脱成長(ボストグロース)期の日本における空き家の急増
 ──住宅市場,都市政策,高齢化の進む都市の活性化(堤 純)・236-238

 

学界消息・239-240

会  告・表紙2 および241–246

2022年秋季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2, および241-242

 

会長講演

空間情報技術が導く地理学方法論の発展──衛星画像を用いた途上国の都市化研究を例に──

村山祐司
筑波大学名誉教授

深刻化する地球環境問題を背景に,衛星画像を活用した国土変容のモニタリングや地域分析が注目を集めている.特にデータが乏しい発展途上国では,都市環境の変化を把握する有力な手段として,空間情報技術を駆使した衛星画像解析が年々存在感を増している.地理学者には,汎用性のある地理空間データを創り出したり,精緻な分析手法を開発したり,新たな方法論を構築して地誌や地域研究に応用するなどして,実証研究の深化に貢献することが期待される.一方で,ビッグデータ活用時代を迎え,膨大な地理空間情報を瞬時に加工・分析し,結果を難なく可視化・流通させる空間情報技術の発展は,研究のあり方や伝統的な時間概念・空間概念の再考を地理学者に迫っている.さらに,集計的思考から非集計的思考へ,空間分析から時空間分析へ,バッチ処理からリアルタイム処理へ,モデル駆動からデータ駆動へ,仮説検証から仮説構築へと,従来の方法論からの転換を促している.

キーワード

衛星画像解析,空間情報技術,地理学方法論,都市化,発展途上国

(地理学評論 95-3 169-193 2022)

 

 

論説

近代移行期の京都における祇園祭山鉾行事の存続要因──都市–祭礼の関係性の再考──

佐藤弘隆
愛知大学地域政策学部

本稿は,都市と祭礼との関係性を,社会空間概念によって再考するものである.祭礼の運営集団は,都市空間(客観的社会空間)からの制約を受け,祭礼敷地(主観的社会空間)を認知することで,祭礼を構成するモノ・コトの創造に必要な諸資源を確保してきた.近代移行期の京都祇園祭の山鉾行事では,町組改正や屋敷所有の更新など,都市空間の急激な変化に対応し,各山鉾町の町中らは,運営集団としての主体性を維持しながら,祭礼敷地を再認知した.その結果,氏子区域全域による山鉾巡行の補助制度が再編されたり,個々の山鉾の復興に必要な諸資源の確保の基準が町内において再設定されたりして,山鉾行事は存続できた.祭礼敷地の再認知のプロセスは,地域文化を創造・維持・革新する場を創出する都市の機能といえ,都市と祭礼との動態的関係性を示すものである.このような祭礼の経験が,都市空間の中に蓄積されることで,その都市の特性や気風などを創造するのである.

キーワード:都市,祭礼,社会空間,近代化,京都祇園祭の山鉾行事

(地理学評論 95-3 194-220 2022)