地理学評論 Vol. 95, No. 2 2022年 3月 - 日本地理学会

●――論 説
音楽実践によるローカリティの構築――フォルクローレする川俣町――
 坂本優紀・101-122

1945(昭和20)年枕崎台風と2018(平成30)年7月豪雨に伴う斜面崩壊の
 分布からみた斜面崩壊の免疫性 岩佐佳哉・123-137

 

●――書 評
井上公夫: 歴史的大規模土砂災害地点を歩く(そのIII)(山本 博)・138‒139

羽田康祐: 地図リテラシー入門(小堀 昇)・140‒141

上杉和央・香川雄一・近藤章夫編: みわたす・つなげる人文地理学(香川貴志)・142‒143

井上 孝・和田光平編: 自然災害と人口(人口学ライブラリー20)(橋本雄一)・144‒145

 

2022年日本地理学会春季学術大会プログラム・146-162

学界消息・163-164

会  告・表紙2,3および165-168

 2022年日本地理学会秋季学術大会のお知らせ(第1報)・表紙2

 

論説

音楽実践によるローカリティの構築――フォルクローレする川俣町――

坂本優紀
東京都立大学

本稿では,福島県川俣町における外来音楽の受容とローカリティの構築過程に着目し,音楽と地域の関係を検討した.その際,音楽を実践の中で創造され改変されていく存在として理解し,演奏や聴取に限定しない多様な音楽的行為を音楽実践として把握した.川俣町では1975年から南米の音楽フォルクローレのイベントが開催されており,現在は日本最大級の規模となっている.当初,イベントに対し一部の住民から反発がみられ,音楽実践は演奏者のみに限られていた.しかし,町内の若年層による実践や行政の関与,外部評価を得たことを契機に音楽が地域へと浸透し,地域活性化の手段として音楽を実践する住民団体が登場した.住民の音楽実践では,音楽を地域資源として認識することが重要であることが示された.また,実践者による積極的な音楽への実体論的/認識論的ローカリティの構築により,音楽と地域が関係づけられることが明らかとなった.

キーワード:音楽,音楽実践,ローカリティ,地域資源,フォルクローレ

(地理学評論 95-2 101-122 2022)

論説

1945(昭和20)年枕崎台風と2018(平成30)年7月豪雨に伴う斜面崩壊の分布からみた斜面崩壊の免疫性

岩佐佳哉

広島大学大学院生・日本学術振興会特別研究員

斜面崩壊の免疫性とは,斜面崩壊が一度発生すると,土層が回復するまでの期間は崩壊が再発しないという考え方である.ある期間において斜面崩壊の免疫性が保たれているかを検証するためには,二度の崩壊が同一の斜面で発生したか否かを検討することが有効である.本研究では,広島県南部を対象として1945(昭和20)年9月の枕崎台風の崩壊の分布を明らかにし,2018(平成30)年7月豪雨の崩壊の分布と比較することで,73年間で斜面崩壊の免疫性が保たれているかを検証した.その結果,枕崎台風では3,787カ所で崩壊が発生したこと,枕崎台風で崩壊が発生した斜面では,平成30年7月豪雨の崩壊のうち1.4%しか崩壊が発生していないことが明らかになった.また,再発した崩壊時の物質の流下距離は枕崎台風の際の崩壊物質の流下距離よりも短い傾向にあった.したがって,枕崎台風に伴って崩壊が発生した斜面では,73年間は斜面崩壊の免疫性が保たれていると考えられる.

キーワード:斜面崩壊の免疫性,枕崎台風,平成30年7月豪雨,GIS,広島県

(地理学評論 95-2 123-137 2022)