●――論 説
伊能忠敬の測量成果の地図化法 野上道男・427-449
●――短 報
大学の立地と撤退からみた大都市圏郊外における学生マンションの立地展開と住宅市場の動態
──京都府京田辺市を事例に── 栗林 梓・450-467
●――書 評
池谷和信編:食の文明論——ホモ・サピエンス史から探る(荒木一視)・468-469
志村 喬編著:社会科教育へのケイパビリティ・アプローチ
──知識,カリキュラム,教員養成(阪上弘彬)・470-471
石川義孝編著:現代日本における民族的エンクレイブ(山本健兒)・472-474
小谷一明:環境から生まれ出る言葉──日米環境表象文学の風景探訪(成瀬 厚)・475-476
学界消息・477-478
会 告・表紙2,3および479-482
2022年日本地理学会春季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2,3
伊能忠敬の測量成果の地図化法
野上道男
東京都立大学名誉教授
伊能忠敬は間縄で測った測線距離を方位によって南北成分と東西成分に分解し,成分ごとに加算して,折れ線となる導線の節点の座標値を次々に求めた.座標値は大図縮尺(1/36,000)の値が用いられ,緯度差1度=28.2里は101.52寸となる.星測点では導線測量による南北座標値は星測緯度の座標値で補正された.補正率(補正量/南北距離)によって,星測点付近の導線の南北・東西位置も滑らかになるように補正された.このようにして得られた座標値をそのまま正距直交座標系の紙面にプロットして大図の導線が描かれた.中図(1/216,000)では6で除した座標値を得て,同じように正距直交座標系の平面にプロットされた.
キーワード:伊能忠敬,導線法,地図化手法,星測,正距直交座標系
(地理学評論 94-6 427-449 2021)
大学の立地と撤退からみた大都市圏郊外における学生マンションの立地展開と住宅市場の動態
──京都府京田辺市を事例に──
栗林 梓
東京大学大学院生
本稿は,大学の立地と撤退という視点から,京都府京田辺市を対象として学生マンションの立地展開と住宅市場の動態について分析し,学生数の減少と住宅市場の動態に関するKintonらのモデルの妥当性について考察した.大学の立地後,学生マンションは,大学に近接するエリアから相対的に大学から遠いエリアにまで広がった.他方,大学の撤退後,学生マンションの家賃は下落し,空き家数も増加した.大学撤退後の家賃の変化にはエリア間で差がみられたものの,その後,家賃はいずれのエリアでも下げ止まり,空き家数も減少した.こうした住宅市場の変化には(1)家主や斡旋業者による社会人を対象としたマーケティングの開始,(2)学生数の回復,(3)京田辺市内の人口増加,の3要因が関連したと考えられる.対象地域におけるこのような動きは,Kintonらのモデルが予測する住宅市場の回復段階と符合する結果となった.
キーワード:大学,学生,学生マンション,住宅市場,京田辺市,大都市圏郊外
(地理学評論 94-6 450-467 2021)