●――短 報
日本南極地域観測隊アーカイブ空中写真を用いた数値表層モデル作成とその有用性
川又基人・土井浩一郎・澤柿教伸・菅沼悠介・1–16
大都市圏における地方税の徴収率の規定要因と空間パターン
――貧困問題との関係を中心に―― 佐藤 洋・17–34
●――書 評
吉見俊哉: 五輪と戦後――上演としての東京オリンピック(成瀬 厚)・35–36
岡橋秀典: 現代農村の地理学(後藤拓也)・37–39
松島亘志・成瀬 元・横川美和編著: 土砂動態学――山から深海底までの流砂・漂砂・生態系(堀 和明)・40–41
学界消息・42
会 告・表紙2,3および43-44
2021年日本地理学会春季学術大会(オンライン)のお知らせ(第3報)・表紙2,3
日本南極地域観測隊アーカイブ空中写真を用いた数値表層モデル作成とその有用性
川又基人*・土井浩一郎**, ***・澤柿教伸****・菅沼悠介**, ***
*総合研究大学院大学大学院生,**国立極地研究所,***総合研究大学院大学,****法政大学社会学部
日本南極地域観測隊の測地定常観測による有人航空機で撮影されたアーカイブ空中写真に対し,Structure from Motion多視点ステレオ写真測量(Structure from Motion with Multi-View Stereo Photogrammetry: SfM–MVS)処理を行うことで,精密な数値表層モデル(Digital Surface Model: DSM)の作成を試みた.その結果,東南極宗谷海岸のスカルブスネスにおいて,氷食微地形や基盤岩の節理といった微起伏をも判読可能なDSMを作成できた.作成したDSMには,SfM–MVS処理特有の歪みが確認されたが,歪みの3次元曲面トレンドを推定し補正することによって,歪みを軽減することができた.また,今回作成したDSM(画像取得年1993年)と国土地理院作成のDSM(画像取得年2009年)の比較から,露岩上の氷河湖において各DSMの平均二乗誤差を大きく上回る20 m以上の水位変動が起きたことが明らかとなった.本手法で作成したDSMは,地形研究はもちろん氷床質量収支や氷床縁監視などの地球環境変動研究の基礎データとして応用が期待できる.
キーワード:宗谷海岸,Structure from Motion多視点ステレオ写真測量(SfM–MVS),日本南極地域観測隊,アーカイブ空中写真,数値表層モデル(DSM)
(地理学評論 94-1 1-16 2021)
大都市圏における地方税の徴収率の規定要因と空間パターン──貧困問題との関係を中心に──
佐藤 洋
東京大学大学院生
大都市圏の基礎自治体における地方税の徴収率と財政状況を分析した結果,大都市圏の自治体における財政は景気による変動を受けやすく,地方税の滞納が発生した場合の影響が大きくなることが明らかになった.そこで,計量的な手法を用いて地方税の徴収率と貧困問題に関係する指標を比較し,規定要因と空間パターンを検討した.分析の結果,①地方税の徴収率が低い自治体は平均年収や完全失業率などの貧困問題に関わりのある指標と有意な関係性があり,GWR(地理的加重回帰分析)により60%程度の説明力が認められた.それゆえに,都市内部構造における社会的地位に関する知見に対応した形でセクター状に徴収率の低い地域が現れている.②ローカルMoran統計量の分析を通して,有意に低徴収率が空間的に連続する地域(クール・スポット)が検出された.さらに,GWRの分析により徴収率を規定する要因には地域差があることが示唆される,という2点が明らかになった.
キーワード:地方税,地方財政,東京大都市圏,空間パターン,貧困問題
(地理学評論 94-1 17-34 2021)