地理学評論 Vol. 92, No. 5 2019年 9月 - 日本地理学会

●―短 報
子どものまちづくり参加と意識する場所の拡がり──宝塚市子ども委員会の取組みの分析から── 久谷明子・269‒282

娼婦の移動実態からみた盛り場の性格── 1950年代の横浜を事例として── 中川紗智・283‒298

 

●―書 評
湯澤規子: 胃袋の近代──食と人びとの日常史(金坂清則)・299‒301

岡田篤正・八木浩司: 図説 日本の活断層──空撮写真で見る主要活断層帯36(堤 浩之)・302‒303

湯澤規子: 7袋のポテトチップス──食べるを語る,胃袋の戦後史(荒又美陽)・304‒305

荒木一視・林紀代美編: 食と農のフィールドワーク入門(田和正孝)・306‒308

山﨑 朗編著: 地域産業のイノベーションシステム──集積と連携が生む都市の経済(鎌倉夏来)・309‒310

山下清海: 世界のチャイナタウンの形成と変容──フィールドワークから華人社会を探求する(加賀美雅弘)・311‒313

島津 弘・伊藤徹哉・立正大学地理学教室編: 地理を学ぼう 海外エクスカーション(松山 洋)・314‒315

田和正孝: 石干見の文化誌──遺産化する伝統漁法(山内昌和)・316‒317

 

石田寛先生のご逝去を悼む・318‒319

 

2019年日本地理学会秋季学術大会プログラム・320‒334

学界消息・335

2019年度公益社団法人日本地理学会定時総会記事・336-339

会  告・表紙2および340-342

2020 年春季学術大会のお知らせ(第1報)・表紙2

 

 

短報

子どものまちづくり参加と意識する場所の拡がり──宝塚市子ども委員会の取組みの分析から──

久谷明子
大阪市立大学都市研究プラザ先端都市特別研究員

本稿では,宝塚市子ども委員会を事例として,子どもの視点を活かしたまちづくりの観点から,子どもの意識する場所の拡がりを検証した.まちづくりに関する意見や提案の機会を得た子ども委員たちが,提案に至る学びのプロセスの中で,自分たちのまちとして意識する場所を拡大させたことを明らかにした.子どもが意識するものには,場所的な拡がりだけではなく,時間的な拡がりもある.現実の社会の中での体験的な活動を通して,子どもたちは自分たちの暮らす地域から,視野をより広げる力を培ったことが明らかになった.

キーワード:子どもの参加,まちづくり,身近な地域,意識する場所,宝塚市

(地理学評論 92-5 269-282 2019)

 

 

娼婦の移動実態からみた盛り場の性格──1950年代の横浜を事例として──

中川紗智
筑波大学大学院生

本研究は,娼婦の通時的な経歴を定量,定性の両面から検討することでその移動実態を明らかにし,彼女らが盛り場をどのように生きたのかという視点から盛り場の性格を把握した.研究対象として1950年代の横浜をとりあげた.その結果,1950年代の横浜には盛り場の重要な構成員である娼婦が大規模に集積する基盤があった.娼婦の中にはほかの盛り場を経由した者や自身の判断によって移動した者も存在した.彼女らが生きる盛り場は全国から人々を惹きつけ,横浜における娼婦のさらなる増加につながった.移動してきた女性たちは横浜での売春を開始して以降もそれぞれが多様な経歴を形成しながら盛り場を生きていた.横浜の盛り場は,多様な背景をもつ多くの女性を絶え間なく流入させ,売春をおこなう彼女らの生活を内包することによって異質性の高い空間であり続けるという性格を持っていた.

キーワード:娼婦,移動経歴,盛り場,1950年代,横浜

(地理学評論 92-5 283-298 2019)