地理学評論 Vol. 91, No. 2 2018 年 3 月 - 日本地理学会

●―論 説

大正期における山村地域からの出寄留についての考察──愛知県東加茂郡賀茂村『寄留届綴』の分析から──
鈴木 允・125‒145

 

●―短 報

埼玉県飯能市におけるエコツーリズムの意義と問題点──エコツアー実施者の参画意識に着目して──
中岡裕章・146‒161

 

●―書 評

栗原一樹編: いまなぜ地政学か――新しい世界地図の描き方(現代思想9月号第45巻第18号)(成瀬 厚)・162‒164

池谷和信編: 狩猟採集民からみた地球環境史――自然・隣人・文明との共生(水野一晴)・165‒166

泉 岳樹・松山 洋: 卒論・修論のための自然地理学フィールド調査(飯島慈裕)・167‒168

吉田英嗣: はじめての自然地理学(松山 洋)・169‒170

椎野若菜・福井幸太郎編著: マスメディアとフィールドワーカー(櫛引素夫)・171‒173

武田史朗: 自然と対話する都市へ――オランダの河川改修に学ぶ(一ノ瀬俊明)・174‒175

 

土井仙吉先生のご逝去を悼む・176‒177

 

2018年春季学術大会プログラム・178‒203

学界消息・204‒205

会  告・表紙2,3および206‒210

 2018年秋季学術大会のお知らせ(第1報)・表紙2

 

 

 

論説

 大正期における山村地域からの出寄留についての考察──愛知県東加茂郡賀茂村『寄留届綴』の分析から──

鈴木 允
横浜国立大学

本稿では,愛知県東加茂郡賀茂村の『寄留届綴』を用いて,大正期の山村からの人口流出の実態を検討した.寄留届に記載された寄留先や寄留者の属性,寄留年月日を入力したデータベースを用いた分析から新たな知見を見出し,人口流出が人口動態に与えた影響を考察した.その結果,寄留者の大部分は若年層で占められ,その多くが県内への寄留であった.中でも,10代~20歳前後での一時的な近隣への単身寄留と,20~30代の世帯主とその同伴家族による都市部への寄留が多数を占めていた.前者では,結婚前の10代女性が女工として働きに出る寄留が目立ち,こうした動向が結婚年齢の上昇や大正期の出生率低下に影響を与えた可能性が考えられた.後者では,大都市への寄留者がそのまま都市内にとどまる傾向が見出され,都市人口の増加への寄与が考えられた.人口移動が都市化や人口転換に与えた影響をより動態的に解明していくことが,今後の課題である.

キーワード:大正期,人口移動,都市化,寄留届,歴史人口学

(地理学評論 91-2 125-145 2018)

 

 

短報

埼玉県飯能市におけるエコツーリズムの意義と問題点──エコツアー実施者の参画意識に着目して──

中岡裕章
日本大学大学院生

本稿は,埼玉県飯能市を事例に,エコツアー実施者の参画意識の差異を,その属性や地域特性の観点から分析し,地域づくりを目的としたエコツーリズムの意義と問題点を明らかにした.東京大都市圏郊外に位置するベッドタウンとしての性格が強い市の東部に居住する実施者は,参画理由に生きがいや楽しみを挙げる者が多く,ツアーに経済的利益を求めない傾向がある.一方,人口減少と高齢化が急速に進行する市の中・西部に居住する実施者は,ツアーの経済的な利益によって若者の定着などを期待する傾向がある.このように,実施者の参画意識には地域差が認められる.特筆すべき観光資源のない里地里山地域において,生きがいや楽しみを求める実施者の意向が大きく反映されたツアーが多く行われ,地域内外の交流が促進されたことは意義が大きいと考えられるが,他方でツアーに経済的利益を期待する実施者の意向にはそぐわないものとなっていることも明らかとなった.

キーワード:エコツーリズム,エコツアー,地域づくり,参画意識,飯能市

 

(地理学評論 91-2 146-161 2018)