●―短 報
夏期の関東地方における対流性降水の発現率の経年変化 澤田康徳・107–117
小笠原諸島における世界遺産登録前後の観光客の変容 川浪朋恵・118–135
Michael J. Wise先生のご逝去を悼む・136–137
学界消息・138–140
会 告・表紙2および 141–143
2016年秋季学術大会のお知らせ(第2報)・表紙2
夏期の関東地方における対流性降水の発現率の経年変化
澤田康徳
東京学芸大学教育学部
本研究では,関東地方における対流性降水の発現頻度とその経年変化の地域性を明らかにし,風系との関連を検討した.アメダスの毎時資料(1980~2009年7, 8月)に基づき対流性降水を抽出し,各年における対象領域全体の発現頻度に対する各地点の降水発現率を算出した.対流性降水発現率の経年変化型は,大きく三つに類型化され,I型は北部山岳地域,II型は北部山岳地域の山麓域,III型は南関東の平野域にまとまって分布する.I型とIII型の対流性降水発現率の経年変化には有意な負の相関関係が認められ,I型で対流性降水発現率が高い(低い)年は海風の内陸への進入が明瞭(不明瞭)である.また,III型地域で対流性降水強度の経年変化が明瞭でない一方,その他の要因を含む降水全般の降水強度は増大傾向にある.これらの結果は,降水発現頻度や強度に関する経年変化を,従前活発に議論された南関東より大きな空間スケールからとらえ直すことの必要性を示唆している.
キーワード:降水発現率,経年変化,対流性降水,夏期晴天日,関東地方
(地理学評論 89-3 107-117 2016)
小笠原諸島における世界遺産登録前後の観光客の変容
川浪朋恵
九州大学大学院生
日本における世界遺産登録は,地域資源の価値の評価と保存・保全への担保という性格だけでなく,地域資源と観光とのより強固な結合という性格も有する.2011年6月に日本で4番目の世界自然遺産に登録された小笠原諸島においても,登録が観光に大きな影響を与えた.本稿では,世界遺産登録前後の観光客について,その数の変化と,属性・観光行動などの質的変化を明らかにした.その結果,登録によって,全国的に知名度が上がり,急激な観光客の増加が見られた一方で,受入数の制限から,観光客の入替わりが起こり,リピーターの減少,初訪問者の増加,一人旅の減少などの属性の変化のほか,滞在の短期化やツアーへの参加率の上昇,トレッキングの人気,物見遊山的な行動など,観光行動も変化した.世界遺産登録は,観光地としての小笠原諸島に強力な付加価値を生み出すとともに,そこに引きつけられる観光客を変化させたことが示された.
キーワード:世界遺産,島嶼観光,観光客の特徴,小笠原
(地理学評論 89-3 118-135 2016)