●―論 説
ポジティブリスト制度導入後の台湾における日本向けマンゴー産業の展開 古関喜之・1–21
●―短 報
小地域の土地利用からみた上海市静安区の都市更新 任 海・22–38
●―書 評
日野正輝・堤 純編:ポスト成長社会における都市地理学(村山祐司)・39–40
青野壽彦・合田昭二編著:工業の地方分散と地域経済社会――奥能登織布業の展開――(上野和彦)・40–42
藤岡換太郎:川はどうしてできるのか――地形のミステリーツアーにようこそ――(青山雅史)・42–44
本多健一:中近世京都の祭礼と空間構造(安藤哲郎)・44–45
学界消息・46–47
2015年日本地理学会秋季学術大会および秋季代議員会記録・48–50
会 告・表紙2,3および 51–52
2016年春季学術大会のお知らせ(第3報)・表紙2,3
ポジティブリスト制度導入後の台湾における日本向けマンゴー産業の展開
古関喜之
広島国際学院大学情報文化学部
本稿では,台湾産マンゴーの日本への輸出を取り上げ,ポジティブリスト制度導入後の日本市場向けマンゴーの生産・輸出システムと,安全性や品質管理を重視した日本市場への対応が生産地域や台湾農業に与えた影響について検討した.日本でのポジティブリスト制度導入後,台湾では政府主導によって,日本向けマンゴー輸出業者と日本市場向けマンゴー園の登録制度,および輸出前の生産者単位による残留農薬と糖度の検査体制が構築された.安全性を重視した対日輸出への取組みは,農家に農薬費の負担を増大させたが,収益増加にも結びついている.また,生産者の安全管理に対する意識を高め,台湾国内では日本の安全基準に基づく輸出システムで生産されたマンゴーが流通し,差別化商品として扱われている.台湾農業にとって,安全性重視の対日輸出への取組みは,輸出や国内販売において,台湾産マンゴーの市場を多様化させる一因となっている.
キーワード:ポジティブリスト制度,日本市場向けマンゴー,安全基準,マンゴー市場,台湾
(地理学評論 89-1 1-21 2016)
小地域の土地利用からみた上海市静安区の都市更新
任 海
日本大学文理学部
中国では,1990年代から上海市をはじめとする大都市で,都市更新の計画が制定されてきた.本研究では,上海市静安区を例として中国の大都市における都市更新が中心市街地内部で引き起こした土地利用の変化を調査し,その実態を詳細に地図化するとともに,小地域レベルで人口分布の変化と土地利用の関係を明らかにすることを試みた.その結果,静安区の都市更新では,スクラップ・アンド・ビルドによって,主に商品住宅と呼ばれる住宅が建設されたことが明らかになった.土地利用の類型化によると,静安区の小地域は6種の土地利用タイプで構成されており,区の北部は住宅地域であり,南部は業務地域と文化財地域である.小地域レベルで分析した結果,静安区においては一部の小地域の人口密度が都市更新前より高くなった.また,旧来の住宅が大規模に取り壊される一方,人口密度が保持されながら,大量の優れた建物が歴史文化財として保存された.
キーワード:里弄住宅,商品住宅,クラスター分析,人口分布,上海市静安区
(地理学評論 89-1 22-38 2016)