●――論 説
沈堕滝(雄滝)の後退速度 高波紳太郎・45‒63
地形解析に基づく中山間地河川の土砂輸送過程に関する研究
南雲直子・江頭進治・64‒81
●――短 報
就職への意思決定過程からみた新卒保育士の労働力供給
──千葉市における保育所の事例── 畔蒜和希・82‒100
●――書 評
萬年一剛: 最新科学が映し出す火山――その成り立ちから火山災害の防災,富士山大噴火(尾方隆幸)・101‒102
田邉 裕: 地名の政治地理学――地名は誰のものか(高木彰彦)・103‒104
松岡憲知・泉山茂之・楢本正明・松本 潔編: 山岳科学(渡辺悌二)・105‒106
2021年日本地理学会春季学術大会プログラム・107‒121
学界消息・122-123
2020年日本地理学会秋季学術大会および秋季代議員会記録・124‒126
会 告・表紙2,3および127-129
2021年秋季学術大会について・表紙2
沈堕滝(雄滝)の後退速度
高波紳太郎
明治大学大学院生・日本学術振興会特別研究員
大分県の大野川中流部にある沈堕滝(雄滝)の位置は,15世紀後半から絵画や文献,測量成果に記録されてきた.本研究はそれらを用いて過去500年間にわたる雄滝の後退史を復元し,後退速度を推定した.その結果,雄滝の平均後退速度は1476年から1799年までの期間には0.7 m/年未満,1799年から1952年までは0.6–1.6 m/年で推移し,Aso-4火砕流堆積後の9万年間でみた平均後退速度(0.36 m/年)を上回った.また,過去500年間の後退速度において最大3倍程度の変化がみられた要因を考察するため,大野川流域の江戸時代における災害誌を参照した.滝の後退を促進しうる災害の頻度と雄滝の後退速度との時間的対応を検討したところ,大野川下流域での水害数は19世紀よりもむしろ18世紀に多く,雄滝の後退速度変化が生じた時期と一致しなかった.よって,ここ数百年間での気候変動は,滝の後退速度に変化をもたらす主要因としては寄与していないことが示唆された.
キーワード:滝,後退速度,歴史時代,溶結凝灰岩,Aso-4火砕流,大野川
(地理学評論 94-2 45-63 2021)
地形解析に基づく中山間地河川の土砂輸送過程に関する研究
南雲直子・江頭進治
国立研究開発法人土木研究所
中山間地河川における土砂・洪水氾濫は近年顕在化している.本稿では,2019年台風19号による大雨で氾濫した宮城県丸森町の内川流域を対象として,洪水による土砂輸送に着目しながら空中写真および地形図の判読,現地調査を行い,氾濫土砂の粒度分布や堆積深を明らかにするとともに,内川下流域における氾濫の特徴を微地形との関係から考察した.また,その地点の流域面積と河床勾配の積として定義される土砂輸送能力の縦断分布に着目して土砂・洪水氾濫の発生を説明し,内川本川および支流の氾濫は互いに影響していないことを確認した.さらに,2018年西日本豪雨によって氾濫した広島県の総頭川,天地川および大屋大川において検証した結果,この指標が中山間地河川の洪水に伴う土砂の侵食・輸送・堆積の過程を表現し,氾濫に対する弱点部を抽出するのに有効なパラメータとなることを確認した.
キーワード:土砂・洪水氾濫,地形解析,土砂輸送能力,中山間地河川
(地理学評論 94-2 64-81 2021)
就職への意思決定過程からみた新卒保育士の労働力供給──千葉市における保育所の事例──
畔蒜和希
明治大学大学院生
本稿では,千葉県千葉市における社会福祉法人運営の保育所に就職した保育士を対象に,出身養成校や就職先を選択する際の意思決定を明らかにすることで,新卒保育士の労働力供給の実態を検討した.一般に保育士養成校と社会福祉法人は実習や人的つながりを通じて採用ネットワークを組織化しており,実習や教員の紹介を就職先決定の理由とする例が多くみられた.加えて,本事例の多くは実家から通勤可能な範囲での就職を積極的に志向しており,実際に自宅近辺の保育所に就職していた.この背景には保育需要が多い東京大都市圏郊外という地域的要因と,その中で養成校に集まるローカルな求人情報を基に就職活動が展開されるという構造的要因が挙げられる.本事例は,ローカルな就職志向という主体性を実際の就職に結実できた事例として理解できる.
キーワード:保育士,労働力供給,保育士養成校,意思決定,千葉市
(地理学評論 94-2 82-100 2021)