●―論 説
数理計画法による中心地理論の体系化――単一財の立地について―― 石﨑研二・87‒107
原子力発電所の立地と地域社会・経済の再編成――福島県富岡町を事例に―― 梶田 真・108‒127
●―短 報
2011 年東北地方太平洋沖地震による利根川下流低地の液状化被害発生地点の地形条件と土地履歴 青山雅史・小山拓志・宇根 寛・128‒142
●―書 評
人文地理学会編: 人文地理学事典(石井英也)・143‒145
熊原康博: 上州中山道の地形散歩(吉田英嗣)・145‒146
元木 靖: 中国変容論――食の基盤と環境――(関根良平)・146‒148
2014 年春季学術大会プログラム・149‒177
学界消息・178‒179
会 告・表紙2,3 および 180‒182
2014 年秋季学術大会のお知らせ(第1 報)・表紙2
数理計画法による中心地理論の体系化──単一財の立地について──
石埼研二
奈良女子大学
本稿の目的は,数理計画法による中心地理論のモデル化の過程を通して,クリスターラーとレッシュの理論を再解釈することである.まず,レッシュの市場地域論を総需要最大化問題として定式化し,仮想地域においてモデルを適用した.その結果,成立閾の値に応じて市場地域の大きさが異なる理論的な中心地システムを導出できた.次に,対極的な目的である総利潤最大化問題を定式化し,二つの目的を統合する一般化モデルを提示した.多目的計画法を用いた一般化モデルは,①財の供給条件,②需要の距離弾力性,③重み付けの条件によって目的関数の構成が変わる.一般化モデルの配置原理から解釈すると,単一財の立地におけるレッシュとクリスターラーの理論は,前者が需要の最大カバーと総移動距離最小化を融合した総需要最大化問題,後者が総移動距離最小化と立地数最小化を多目的計画法で定式化した一般化メディアン問題として位置づけることができる.
キーワード:中心地理論,数理計画法,多目的計画法,配置原理
(地理学評論 87-2 87-107 2014)
原子力発電所の立地と地域社会・経済の再編成──福島県富岡町を事例に──
梶田 真
東京大学総合文化研究科
本稿では,福島第2原子力発電所が立地する福島県富岡町を事例に,原子力発電所の経済効果の世代間の差異に焦点を当て,原子力発電所の建設・稼働による地域社会・経済の再編および経済効果の変化の受容について検討した.主に文献・統計資料を検討した分析の結果,経済面では原子力発電所関連産業を中心とした構成に再編され,社会面では①在来住民,②原子力発電所の建設以降に流入・定着した住民,③流動性の高い短期在住者,の三つのグループに再編され,地方圏一般とは異なり,②や③の人口が大きな構成比率を占めていることが明らかになった.また,原子力発電所依存経済の時期限定性の問題は,このようなかたちで再編された地域社会の下で出現し,②のグループ,特に原子力発電所建設期に青年層として流入し,人口規模のピークを構成している1951~1955年生とその周辺のコーホートに最も大きな影響を与えていることも示された.
キーワード:原子力発電所,経済効果,地域社会,地域経済,福島県富岡町,NIMBY施設
(地理学評論 87-2 108-127 2014)
2011年東北地方太平洋沖地震による利根川下流低地の液状化被害発生地点の地形条件と土地履歴
青山雅史*・小山拓志**・宇根 寛***
*一般財団法人日本地図センター,**大分大学,***国土地理院
2011年東北地方太平洋沖地震で生じた利根川下流低地における液状化被害の分布を詳細に示した.本地域では河道変遷の経緯や旧河道・旧湖沼の埋立て年代が明らかなため,液状化被害発生地点と地形や土地履歴との関係を詳細に検討できる.江戸期以降の利根川改修工事によって本川から切り離された旧河道や,破堤時の洗掘で形成された旧湖沼などが,明治後期以降に利根川の浚渫砂を用いて埋め立てられ,若齢の地盤が形成された地域において,高密度に液状化被害が生じた.また,戸建家屋や電柱,ブロック塀の沈下・傾動が多数生じたが,地下埋設物の顕著な浮き上がり被害は少なかった.1960年代までに埋立てが完了した旧河道・旧湖沼では,埋立て年代が新しいほど単位面積当たりの液状化被害発生数が多く,従来の知見とも合致した.液状化被害の発生には微地形分布のみならず,地形・地盤の発達過程や人為的改変の経緯などの土地履歴が影響を与えていたといえる.
キーワード:液状化被害,旧河道・旧湖沼,旧版地形図,利根川下流低地,2011年東北地方太平洋沖地震
(地理学評論 87-2 128-142 2014)