●―総 説
遠近法主義に抗う現代風景芸術――芸術を対象とする景観研究―― 成瀬 厚・413‒435
●―短 報
青森県における集出荷業者を介したリンゴ流通の特性 栗林 賢 436‒450
山形県川西町における古日記天候記録にもとづく1830 年代以降の7 月の気温変動復元 平野淳平・大羽辰矢・森島 済・財城真寿美・三上岳彦・451‒464
●―書 評
S. ズーキン著,内田奈芳美・真野洋介訳: 都市はなぜ魂を失ったか――ジェイコブズ後のニューヨーク論――(荒又美陽)・465‒466
岡田俊裕: 日本地理学人物事典[近世編][近代編1][近代編2](吉野正敏)・466‒468
恩師西村嘉助先生を偲ぶ・469‒470
2013 年秋季学術大会プログラム・471‒484
学界消息・485‒486
2013 年度公益社団法人日本地理学会定時総会記事・487‒490
会 告・表紙2 および 491‒492
2014 年春季学術大会のお知らせ(第1 報)・表紙2
遠近法主義に抗う現代風景芸術―芸術を対象とする景観研究―
成瀬 厚
東京経済大学非常勤講師
景観研究は多様化している.日本では工学分野を中心に景観は多分野で議論されている.英語圏地理学では,景観の視覚的側面を重視する歴史研究から現代芸術を対象とした動向がある.本稿では,遠近法主義の概念を歴史研究から整理するとともに,現代芸術を対象とした近年の景観研究を整理した.ドイツの画家リヒターに関する美学研究を参照することで,地理学への風景芸術研究の導入線とした.写真を模写するフォト・ペインティングという技法を用い,ぼかしや上塗りを施すことによって,彼の風景画は抽象画とも類似したものとなっている.そうした風景画を制作することによって,リヒターは因襲的な風景芸術をアイロニックに再現し,遠近法に基づく因襲的な見る方法に挑戦しているといえる.
キーワード:景観研究,現代芸術,見る方法,美術史,認識論,ゲルハルト・リヒター
(地理学評論 86-4 413-435 2013)
青森県における集出荷業者を介したリンゴ流通の特性
栗林 賢
筑波大学大学院生
本稿は,青森県における集出荷業者を経由したリンゴ流通の特性を,集出荷業者の集出荷戦略の視点から検討した.集出荷業者は出荷するリンゴの品質を最重視する一方で,集荷基準を提示すると農家が出荷を中止する可能性があることから,集荷基準を提示せずに農家からリンゴを集荷している.この集荷・出荷間の矛盾を解消するために,集荷では仲買人を雇用して農家の選別をしたり,意図した品質のものを買付けできる産地市場を利用している.また,出荷では長期的な関係を築くことで取引先にリンゴの特質を理解してもらうなどの方策をとっていることが明らかになった.また,集出荷業者は農家から集荷する中で,運搬労働力や資材の提供をすることで有袋栽培を行う小規模農家群の経営を支え,4月以降の出荷を安定したものとしている.このように,集出荷業者が出荷・集荷間の矛盾を解決した結果として,現在の集出荷業者を介したリンゴ流通は成り立っている.
キーワード:集出荷業者,集出荷戦略,産地市場,リンゴ産地,青森県
(地理学評論 86-5 436-450 2013)
山形県川西町における古日記天候記録にもとづく1830年代以降の7月の気温変動復元
平野淳平*・大羽辰矢**・森島 済***・財城真寿美****・三上岳彦*****
*独立行政法人防災科学技術研究所,**株式会社東武ストアー,***日本大学,****成蹊大学,
*****帝京大学
本研究では,東北地方南部に位置する山形県川西町において1830年から1980年までの151年間,古日記に記されていた天候記録にもとづいて7月の月平均日最高気温を推定し,その長期変動にみられる特徴について考察した.推定結果からは,1830年代と1860年代,および1900年代に寒冷な期間がみられ,これらの寒冷な時期が東北地方における飢饉発生時期と対応していることが明らかになった.また,20世紀後半には,1980年代から1990年代前半にかけての時期は寒冷であり,この時期の寒冷の程度は,1830年代や1900年代に匹敵する可能性があることが明らかになった.一方,温暖な時期は1850年代,1870年代~1880年代,および1920年代にみられた.1850年代前半には現在の猛暑年に匹敵する温暖な年が出現していたことが推定された.
キーワード:古日記天候記録,気候復元,7月,気温変動
(地理学評論 86-4 451-464 2013)