地理学評論 Vol. 97, No. 6 2024年 11月 - 日本地理学会

●――論 説
北海道外におけるアイヌの「記憶の場所」と先住民性 桑林賢治・343‒367

 

●――書 評
𠮷水裕也: 地理的な見方・考え方を働かせた地理授業デザイン(松山 洋)・368‒369

井田仁康監修,唐木清志・國分麻里・金 玹辰編著: Well-being をめざす社会科教育
 ──人権/平和/文化多様性/国際理解/環境・まちづくり(秋本弘章)・370‒371

小田宏信編著: 日本経済地理読本 第10 版(香川貴志)・372‒373

 

学会消息・374-375
会  告・表紙2, 3および376-380
 2025年日本地理学会春季学術大会のお知らせ(第2報)・376-377

論説

北海道外におけるアイヌの「記憶の場所」と先住民性

桑林賢治
山形県立米沢女子短期大学

先住民性をめぐる地理的想像力に反する空間での先住民による「記憶の場所」の構築がもつ特徴と意義を明らかにするために,本稿は東京の芝公園と沖縄の南北之塔を事例として,北海道外でのアイヌによる「記憶の場所」の構築過程を検討した.日本においてアイヌの先住民性を北海道と結びつける地理的想像力が支配的である状況を背景として,北海道外に立地するアイヌの「記憶の場所」の位置づけは不安定な状態に置かれてきた.他方で,アイヌは北海道外の空間と記憶に注目することが,彼(女)らが抱えてきた北海道内外での問題を解決する上で有効な手段であると認識してきた.その意味で,北海道外でのアイヌによる「記憶の場所」の構築とは,北海道外の空間をアイヌの先住民性に反するものとみなす抑圧的な地理的想像力と,同じ空間の中に権利と尊厳の回復をもたらす可能性を見出すもう一つの地理的想像力が,せめぎあう過程であったと理解できる.

キーワード:記憶の場所,アイヌ,先住民性,地理的想像力,芝公園,南北之塔

(地理学評論 97-6 343-367 2024)