地理学評論 Vol. 97, No. 3 2024年 5月 - 日本地理学会

●――短 報
岡山県美作市における獣害と狩猟活動
 中島柚宇・73-97

陶磁器需要減少下における美濃焼産地窯元の対応
 笠原茂樹・98-123

●――書 評
池田 碩:自然災害地──被災地を巡り,教訓を学ぶ.古今書院,2023年,190 p., 4,800円+税.(香川貴志)・124-125

専修大学文学部環境地理学科編:山地と人間.専修大学出版局,2023年,268 p., 2,400円+税.(松山 洋)・126-127

林 上:歴史と地理で読み解く日本の都市と川.風媒社,2024年,425 p., 2,200円+税.(香川貴志)・128-129

牛垣雄矢・稲垣 稜・小原丈明・駒木伸比古・西山弘泰・山口 晋:日本の都市百選 第1集.古今書院,2023年,190 p., 2,800円+税.(戸所 隆)・130-131

短報

岡山県美作市における獣害と狩猟活動

中島柚宇
名古屋大学大学院

本研究では,シカとイノシシの捕獲数が多い岡山県美作市を研究対象地域とし,1990年代以降,野生動物による農業被害が深刻化する中で,狩猟活動がどのように変化してきたかを検討した.美作市は有害駆除捕獲や防護柵整備を中心に対策を進めてきたが,多くの農家が防護柵のみの対策に限界を感じ,自らわな猟免許を取り狩猟に新規参入するようになった.それらの狩猟者の習熟の早さや,狩猟に多くの時間を割けるなどの条件により,狩猟者当たり捕獲数が著しく増加した.また狩猟者を対象としたアンケートの結果,ほぼすべての狩猟者が今後も狩猟を継続する意向を持っていた.しかし,狩猟活動の継続には金銭的負担,時間的制約,高齢化による身体能力の減退などさまざまな困難が存在することも明らかになった.美作市における狩猟活動は,銃猟からわな猟へ,小物猟から大物猟へ,趣味やレジャーから義務や労働へと,その性質や役割を大きく変容させていた.

キーワード:狩猟,獣害,シカ,イノシシ,岡山県美作市

(地理学評論 97-3 163-179 2024)

 

陶磁器需要減少下における美濃焼産地窯元の対応

笠原茂樹
日本大学大学院生

本稿は,美濃焼産地を事例に陶磁器需要減少への窯元の対応とその特徴について明らかにした.同産地では,戦後の生産拡大期における窯元の経営規模が焼成設備に反映され,大規模窯元はトンネル窯を,中小規模窯元はシャトル窯を主に導入している.焼成設備の違いは需要減少による影響に差異を生じさせ,スケールメリットが重要となるトンネル窯導入窯元の転廃業が進んだ.一方で,シャトル窯導入窯元は生産調整が容易であり,転廃業はみられるものの減少割合は小さい.現存するトンネル窯導入窯元は機械化やIT化を推進し,生産効率を向上させることで多品種大量生産体制に移行し,スケールメリットを維持した.シャトル窯導入窯元では自社の技術や設備を有効活用し,高付加価値製品の製造や多品種少量生産への移行を行った.このように,美濃焼産地における陶磁器需要減少への対応は経営規模により異なる特徴を持っている.

キーワード:陶磁器産業,地場産業,生産規模,美濃焼,東濃地方

(地理学評論 97-3 180-203 2024)