地理学評論 Vol. 97, No. 2 2024年 3月 - 日本地理学会

●――論 説
地名の空間的な曖昧さによる結束の機能──千里ニュータウンにおける地域活動を事例に──
 北西諒介・73-97

国土計画学者・北村徳太郎の中心地理論発見に関する一考察
 杉浦芳夫・98-123

●――書 評
植村善博・関口康弘・大邑潤三:日本禹王事典.古今書院,2023年,343 p., 4,800円+税.(網島 聖)・124-125

山本晴彦:中央気象台——帝国日本の気象観測ネットワークの展開と終焉.農林統計出版,2023年,663 p., 7,000円+税.(松山 洋)・126-127

湯澤規子:「おふくろの味」幻想──誰が郷愁の味をつくったのか.光文社,2023年,277 p., 940円+税.(池田和子)・128-129

橋本雄一編:「地理総合」とGIS教育──基礎・実践・評価.古今書院,2023年,111 p., 3,200円+税.(川村 壮)・130-131

論説

地名の空間的な曖昧さによる結束の機能──千里ニュータウンにおける地域活動を事例に──

北西諒介
京都大学非常勤研究員

近年の地名研究では,地名の由来や語源の探求だけでなく,地名の使用を場所形成のプロセスの中に置いてとらえる見方が盛んである.しかし,こうした潮流は地名分析の幅を広げた一方で,地名が複数の意味を持っていることが見過ごされているという問題点ももつ.本論文では地名学のさらなる発展を目指す立場から,地名を多様な主体による多様な意味づけの対象としてとらえ,それらの意味の総体としての地名が果たしている機能について考察した.具体的には,大阪府の千里ニュータウンで展開される地域活動に着目し,その関係主体によって「千里」という地名が多義的で曖昧な存在としてとらえられていることを示した上で,その曖昧さがそれぞれの主体の間での活動に対する志向の差を埋め,結束させる役割を果たしているということを指摘した.

キーワード:地名,地名学,地域活動,千里ニュータウン,聞取り調査

(地理学評論 97-2 73-97 2024)

 

国土計画学者・北村徳太郎の中心地理論発見に関する一考察

杉浦芳夫
東京都立大学客員教授

戦前から内務省技師として日本の国土計画に携わった北村徳太郎は,戦後,戦時中に学んだドイツ国土計画論を日本の集落状況に落とし込んだ,「中心部落–邑街地–小都市・町–中都市–大都市」から成る中心集落の階層的構成論を考えついた.そして,それを1953年に始まる「昭和の大合併」によって生まれた新都市の建設に活かそうとした.北村は持論をまとめていく過程において,ドイツ系アメリカ人建築・都市計画学者のLudwig Hilberseimer の The new regional pattern: Industries and gardens, workshops and farmsを読み,その中で紹介されているChristallerの中心地理論と,ドイツ国土計画論との間に関係があることを見抜いた.そのことを北村に最終的に確信させたのが,1956年に発表された村松繁樹の『都市問題研究』掲載論文であった.

キーワード:北村徳太郎,Ludwig Hilberseimer,村松繁樹,ナチ・ドイツ国土計画論,中心地理論

(地理学評論 97-2 98-123 2024)