2024年秋季学術大会 高校生ポスターセッション(オンライン)発表タイトルおよび要旨

発表番号,発表タイトル,発表者(学校名),発表要旨

01 美濃市余取川で発生した水害の地理的要因の考察
  増田光瑛・後藤快心・福島大地(岐阜県立武義高等学校)
令和5年8月16日、美濃市で1時間に40ミリを超える激しい雨が降り、市内を流れる中小河川の余取川が増水し、上流から中流域で浸水や市道橋や護岸の崩落の被害が発生した。身近で発生した災害に興味をもち、地形図を調べ、過去の文献調査やフィールドワークを行い、水害が発生した要因を明らかにする目的で研究に取り組んだ。余取側は昔から氾濫を繰りかえし改修を施されてきたが、近年で河川の形が改修されたのは下流域のみと分かった。上流は川幅が極めて狭く古城山の降雨を集めやすい地形であり、中流域の市街地は川が蛇行するうえ、橋の川幅と桁下高の平均値を調べたところ、中流域の橋は下流域より狭くて桁下が低いことが分かった。また、下流へ繋がる河岸段丘付近で市内を南北に流れる曽代用水が余取川下を流れ、被害が多く発生した中流での河川改修が困難であり、水害に繋がったと考えた。

02 埼玉県ときがわ町における放置竹林の活用~「竹サッシを生産するとしたら」地理的条件から工場適地を探す~
  田中陽菜(淑徳高等学校)
私はSDGs#SASS2023において放置竹林の活用として、断熱性と循環性に優れた竹サッシを提案した。今回の研究は「竹サッシを生産するとしたら」と想定し、埼玉県ときがわ町で工場立地の適地を探すことが目的である。工場立地の地理的条件を2つあげる。①防災上の安全。②車通勤15分。①は国土地理院「重ねるハザードマップ」とJ-SHIS「地震ハザードステーション」を用いて安全な場所を特定する。②は共働き世帯が小1の壁を解消するべく自宅から工場まで2㎞以内の地を特定する。令和24年4月に都幾川の支流の雀川で現地調査を行い、大雨により繰り返し削られた放置竹林を確認した。町役場へ質問したところ、被害を受けた箇所は擁壁等で対策済みとの回答を得たが、過疎地の雀川のように取り残された場所もあることが分かった。西部の山間部ではバスが
廃止され生活に困難が生じている。私は条件①②を満たす西平地区が竹サッシ生産の適地であると結論付けた。

03 「道の駅いちかわ」から見た都市型道の駅の特徴について
  中村 龍(巣鴨高等学校)
1993年に正式登録が開始された道の駅は、近年都市部にも進出している。本研究では、2018年に開業した千葉県市川市の都市型道の駅「道の駅いちかわ」と、1993年に開業した千葉県南房総市の非都市型道の駅「道の駅三芳村」を比較し、都市型道の駅の特徴を明らかにすることを目的とした。調査方法は、実地調査、聞き取り調査、各種統計資料および国土数値情報を用いた。いちかわでは千葉県各地の産品だけでなく、市川市の特産の梨をはじめとして海苔や野菜などの地元の産品が多く販売されていれた。ナンバープレートから、いちかわでは小型車は近隣の、大型車は遠方のナンバーが多く、三芳村はいずれも遠方からの利用が多いことが分かった。いちかわの来訪理由は、「ここでしか買えない商品が多い」という回答が多かった。これらの結果から、都市型道の駅は周辺人口が多いため近隣からの買い物客にもターゲットを置くことができることが分かった。

04 岡山県倉敷市真備地区におけるダークツーリズムの可能性~真備地区の現地調査と他地域の事例を通して~
  中塚悠稀(岡山県立岡山大安寺中等教育学校)
「平成30年7月豪雨」で甚大な被害をうけた岡山県倉敷市真備地区には、過去4度にわたって発生した洪水災害の災害伝承碑がある。また、防災復興公園も整備され、市長はこの公園から防災意識と真備の魅力を発信したい、と語る。本研究では、ダークツーリズムに関する先行研究と、東日本大震災と原爆ドームにおけるダークツーリズムの成功事例から、それに必要な構成要素を考察した。また、その構成要素から真備地区におけるダークツーリズムの可能性を考察した。真備地区には、「1000人の金田一耕助」という、金田一耕助が戦時・戦後に疎開した住居を歩いて、巡るイベントがある。このイベントを活性化させ、戦争のみならず、洪水に関する教育を内容に含めることを真備地区におけるダークツーリズムとして提案したい。これによって、文学的な知見を深めると同時に、過去の洪水災害についても学ぶことができる。

05 埼玉県における熱中症リスクの地域性分析―若年層の熱中症減少リスク軽減に向けて―
  鬼澤伶奈(埼玉県立川越女子高等学校)
埼玉県は夏季の日最高気温が全国的に高く、熱中症による救急搬送者数は全国でも上位である。また、先行研究によると県内の気温や救急搬送者数には地域差がある。そこで、本研究では高校生を含む若年層が熱中症に罹るリスクを減少させるため、どの時間帯に県内のどこで熱中症に罹っているかについて、埼玉県提供の 26 消防本部ごとの救急搬送者数のデータを用いて調査を行った。さらに埼玉県環境科学国際センターの観測した暑さ指数データ、気温観測データと救急搬送者数との関係を調査し、屋外活動が安全に行える時間帯の地域性について考察した。その結果、県南部では北部に比べて夕方の暑さ指数が低く、搬送者数も少ないため熱中症リスクが低いことが明らかとなった。また、曜日ごとの熱中症の罹りやすさについて調べてみると、日最高気温の平均に差はないにもかかわらず、若年層で土休日の方が多いことがわかり、運動部の大会の影響があると考えられた。

06 鎌倉の抱える問題〜観光客の動向を中心に〜
  藤原若紗(桐光学園高等学校)
有数の観光地である神奈川県の「鎌倉」では近年、ゴミのポイ捨てや騒音、駅周辺の過剰な混雑といったオーバーツーリズムが問題になっている。問題になるほど観光客が絶えない鎌倉にはどのような人がやってくるのか、どのような魅力があるのか、鎌倉駅を利用する外国人観光客と日本人観光客を対象にアンケート調査を実施し、観光客全体の傾向や外国人と日本人での視点の違いなどを分析した。また、コロナ禍の前後で観光客・観光地としての特徴に違いがあるのかどうかや不満に感じていることを地元の住民や飲食店、土産屋経営者に話を聞いて、調査した。一方で鎌倉市は自然災害の発生時、住民と観光客が安全に過ごせる場所の整備が追いついていないという問題も抱えている。その上で、アンケートの結果や公表されている国や自治体のデータから観光客にとっても鎌倉市民にとっても快適に過ごせる在り方を提案する。

07 ルワンダ共和国キガリ市における職業訓練の実態とその地域的役割
  髙田結愛(東京学芸大学附属国際中等教育学校)
本研究は、ルワンダ共和国の首都キガリ市における職業訓練の実態と地域的役割を、2週間の現地フィールドワークを通して明らかにした。現地調査ではキガリ市キミフルラ地区に位置する縫製の職業訓練校において、ここに通う訓練生や修了生、講師を対象として、職業訓練に対する動機や目的を明らかするためのインタビュー調査を実施した。また、運営システムやカリキュラムなど、訓練校関係者との対話を通して得られた情報を分析するとともに、文献調査を並行して行い考察を進めてきた。
調査対象とした職業訓練校では、地域の行政機関などと連携した受け入れ体制をとっており、若くして子どもをもった女性の自立支援の一端を担っていることがわかった。また、インタビュー調査を通して、職業訓練が縫製技術の習得に加えて、同じような境遇にある他者と交流する機会にもなっており、彼女たちの生活に良いインパクトを与えていることが明らかになった。

08 伝統的河川工法で防ぐ現代の洪水
  伊藤悠(桐蔭学園高等学校)
近年、地球温暖化により日本では線状降水帯が多発し、例年の降水量を大きく超える雨が増え、夏から秋に河川の氾濫が増加している。 氾濫は堤防の決壊や越水によるものが多いが、それらの対策はコストの高いものがほとんどだ。そこで本研究では、伝統的な水制用具「聖牛(ひじりうし)」や「蛇籠(じゃかご)」と独自に開発した水制用具「沈牛(しずみうし)」に、堤防決壊を防ぐ効果があるか調べた。100分の1の川の模型を作りシミュレーションと実証実験を繰り返した。実験は大きく分けて2つあり、1つ目は鉄砲水による決壊の対策である。結果は、沈牛を川の上流に、聖牛は堤防を護岸するように置くと最も効果が出た。2つ目は越水による堤防決壊の対策である。結果は、蛇籠を堤防の川裏に埋めこむことで、堤防の決壊や流出を減災する効果があった。これらの研究結果を踏まえ、現在の水害でも伝統的な水制用具を使用して被害を少なくすることができると考えた。

09 広島市における「市内」の心理的範囲に関する考察 ―「市内に遊びに行く」の「市内」ってどこ?―
  舟原幸穂・東咲弥・大谷淳泰・白石智佳子・西田美月(広島県立広島井口高等学校)
広島市では、中心市街地に買い物に出かけたりする場合、「市内に行く」という表現を頻繁に用いる。この表現は中高生頃から一般的になり、大人も日常的に用いる一方、広島市内居住者も使う矛盾のある語用である。この「市内」とは地理的にどのような範囲を持ったものなのか、また、その語用には使用者の属性によって特徴や違いがあるのかについて明らかにすることが本研究の目的である。本校生徒と保護者、教職員にアンケート調査を実施し、回答者属性と「市内」の中心にあると考えるランドマークや来訪目的とのクロス分析を行うとともに、自由記述分析を行った。またこれらから、回答者の持つ「市内」の心理的範囲について、地図化を試みた。得られたデータの分析・考察から、一定程度の中心性が明らかになるとともに、世代によって、その語用や「市内」の語が持つイメージに差異があることが明らかとなった。

10 広島市におけるコンビニエンスストア,歯科医院,寺院の立地分析
  齋藤美優葵・島村姫梨・末松優侑・福冨凌大・上奈月(広島県立広島井口高等学校)
近年、後継者不足で廃寺になる寺院が増えているという話題をよく耳にする一方、寺院の数は日本全国でコンビニエンスストアよりも多いという。また、歯科医院もコンビニエンスストアよりも多いと言われている。このことについて、広島市においても同様の現状が見られるのか、また、それぞれの立地にはどのような特徴や共通点、相違点がみられるのかを明らかにすることが本研究の目的である。広島市におけるコンビニ大手3社と歯科医院、寺院をリスト化し、アドレスマッチングによってjSTAT MAPで地図化した。また、メッシュマップによる人口分布と各施設の立地を重ね合わせ、それぞれの特徴を分析した。いずれも人口密集地に多く立地する一方、コンビニは郊外の幹線道路沿い、歯科医院は住宅団地の内部、寺院は旧主要街道沿いなどに立地するなど、それぞれの特性が明らかとなった。

11 斜面特性と風倒木発生の関係にかかる一考察~京都市北部鞍馬山仙徳谷を事例に(第2報)~
  石川稟・阿部真里奈・大賀晴佳・大川明珠・古賀心美・小林祐太・船越璃望・ 古川栞帆・吉田 壮 (京都府立北稜高等学校)
2018年台風21号により京都市北部鞍馬山仙徳谷に大規模な風倒木被害が発生した。本研究では本校及び京都先端科学大学のドローンによる撮影データと傾斜分布図や水系図等をGISで組合せ、斜面の特性と風倒木発生の関係を調査してきた。今回はさらに人為的要因を考慮し林齢や間伐の状態を加味した。その結果、風倒木は傾斜30~40度の水系の発達が乏しく表土が乾燥した南西向き斜面に集中し、水系が発達し表土の保水力が高い北東向き斜面での発生は少なかった。一方で、両斜面とも1945年以降の拡大造林政策によって植林された林齢は70年前後のスギが多く、風倒木が多かった南西向き斜面では間伐が不十分で根の発達が制限されたことも風倒木被害を拡大させた要因のひとつであった。今後は立体地形図を作成して台風による強風がどのように吹いたのかを再現実験し、当時の状況を復原するとともに他の風倒木発生斜面との比較を行い、風倒木が発生しやすい状況を明らかにしていきたい。

12 アニメの聖地を複層化させる要因は何か?~聖地と公共交通機関の関係について~
  橋本みりあ (京都府立北稜高等学校)
アニメの聖地巡礼が普及したのは、描写される風景のリアリティが増した2000年代である。その後、全国各地で地域振興の起爆剤として聖地巡礼が用いられ、2016年の『君の名は。』をきっかけに聖地巡礼は市民権を得た。しかし、多くの聖地は1地域1作品と いう単層化の状態で作品のブームが過ぎると巡礼客が減少し持続可能な地域振興に結び付かない事がある。一方で京都市は多くのアニメ作品の舞台として用いられ、聖地は1地域複数作品の複層化を見ることができる。本研究ではアニメの聖地が複層化する要因と して、公共交通機関の発達が影響すると考えた。単層化状態の聖地は交通の便が悪いのに対 し、複層化状態の聖地は交通の便が良い。また、京都市内に見られる聖地においても、交通アクセスの利便性によって複層化にならない場所も見られた。今後は主要なアニメ作品の興行収入と巡礼客数、聖地巡礼先と交通機関との関係を多面的に考察することを課題としたい。

13 島嶼部におけるIターン者の移住先決定要因に関する研究 ~大崎上島町を事例にして~
  築達永悠・松野榛・松田正太郎・益慎太郎(広島大学附属高等学校)
近年、 中山間地域や島嶼部の人口減少が深刻化しており、 その対処が急務となっている。このような社会背景の中、人々の移動に注目が集まっており、特に人口減少が深刻な地域ではUターンやIターンの受け入れをどのように拡大するかが議論されている。そこで本研究は、新規の定住人口を増やすことにつながるIターン者の増加に注目し、島嶼部へのIターンを促す要因を明らかにすることを目的に研究を行った。本研究では、瀬戸内海の島嶼部のうち移住者が特に多い大崎上島町に注目し、町の産業構造の分析から町特有の産業が移住の多い一因であると予想し、インタビュー調査を通じて Iターン移住者の移住動機を明らかにした。調査結果から、大崎上島町では多様な産業と特有の社会的風土が移住を支えていることが分かった。また、移住動機は2パターンに分類でき、それぞれの移住者にあった施策を打ち出していく必要があることを明らかにした。

14 歴史遺産を活用した「防災・地域史学習の場」づくり
  清水綾乃・余谷莉瑚 (三重県立松阪高等学校)
研究目的:三重県度会郡玉城町の宮川河畔に設置されている「たまき水辺の楽校」の今後の整備・活用について考察・提言する。特に、周辺に存在する「水害伝承碑」(現在、地理院地図に登録申請中)と水制遺構「百間バネ」の調査・活用を行い、「たまき水辺の楽校」を防災・地域史学習の場として整備していくことを、玉城町役場および国土交通省三重河川国道事務所に提言し、今後の具体的整備計画に反映させていきたい。
データ・研究手法:玉城町・国土交通省などへの聞き取り調査、地元住民への聞き取り調査、「たまき水辺の楽校」活用に関するワークショップなどに参加し意見表明を行う。
結果・考察:「たまき水辺の楽校」の今後の整備や百間バネの調査活用についての現状について報告す

15 新高校教育課程における地理探究設置状況の傾向分析
  橘木翼(名古屋高等学校)
地歴・公民の選択科目間における設置率の傾向を分析するため、全国2211の全日制公立高校のHP上にある教育課程表を参照することで、GISを用いて地図化を試みた。調査の結果、全国の地理探究設置率は61.67%であり、文系・理系を区別したところ、その間で50%以上設置率が異なる静岡、兵庫、福岡といった地域がみられた。設置率は、全体的に三大都市圏では低く、地方では高くなる傾向が確認された。さらに、旧制第一中学を起源とする高校では、すべての高校で文理を問わず地理探究が設置されていた。また、学部生人数上位100大学と文系地理探究設置率との間にはある程度相関がみられ、私立大学が地理を受験科目としているか否かで地理探究が設置されるかは変動しうる。その結果、居住地や文理選択によって地理探究を選択できないという不公平な状況が生じていると示された。すべての生徒に平等に科目選択の権利が与えられることが重要である。

16 人口のオープンデータを用いた地域活性の定義 ー主成分分析による地域活性度スコアの算出によってー
  新開美織・伊達美月・桒田茉奈・西川千草(広島大学附属高等学校)
本研究は、一般に言われる「地域活性」を地域活性度スコアとして数値化することを目的としている。そこで、人口に関するオープンデータを用いて主成分分析を行い、算出式に代入する値を算出した。式の定義においては、人口増加率の大小を地域活性度と捉え、人口増加率が高い地域の中で共通した傾向が見られる主成分ほどスコアに強く影響するよう、係数を設定した。結果として、係数の大きい主成分には年齢構成や種類別世帯数が大きく影響を与えており、若年層が多く単身世帯が少ないほどスコアが高くなることが明らかになった。また、スコア順に並び替えて地域活性の順位付けを行った結果、本研究の地域活性の定義における上位市町村は北名古屋市や彦根市、下位市町村は大阪市、横浜市となった。人口などの量的データは割合などの質的データに比べて各市町村のスコアに与える影響が大きく、人口が極端に多い地域が下位市町村に位置づけられたと考えられる。

17 東京都杉並区における児童の外遊びできる場所の現状と課題
  久我佳乃子 (東京都立三鷹中等教育学校)
近年児童が外遊びをする機会が減っていることが課題になっている。本研究の対象地域である東京都杉並区は子育て応援事業などを行っており、子育てしやすい環境づくりを図っている。本研究では、児童が十分に外遊びできる場所の分布とその特徴を明らかにし、課題を検討することを目的とする。研究方法として、統計・文献調査、区役所への聞き取り調査、実地調査を行った。十分に外遊びできる場所として公園、小学校、学童クラブなどを特徴ごとに分類し、GISを用いて分布図を作成した。地域ごとの総人口に占める児童の人口の割合と比較検討すると、公園などの数は杉並区全域に分布していることが分かった。しかし、公園などの規模には偏りがあり、児童の人口が多くても外遊びに十分な広さの公園が少ないなど、地域によって不十分な場所や課題があることが分かった。特に児童の人口が多い地域で外遊びのできる広さや設備のある場所を提供することが必要である。

18 データセンターうなぎは土用の丑の日を救うのか?
  南條清斗 (六甲学院高等学校)
近年の情報化社会の発展に伴い、大規模なサーバールームをもつデータセンターの需要が急激に増加している。しかしデータセンターは常に電力が必要であるため、膨大な電力を消費し大量の熱を排出する。一方で魚類の陸上養殖は適切な水温管理が必要であり、停電によるリスクが大きいことからあまり広まっていない。そこで本研究では郊外型データセンターの持つ広大な敷地とその排熱を及び停電に強い電源供給網を利用した陸上養殖を提案し、その実現可能性について多角的に評価した。
具体的にはまず既存のうなぎ養殖の実例を参考に、他のデータセンターにおけるうなぎ養殖の導入可能性を検討したほか、現時点で完全養殖の技術が確立している魚種を中心に同様の手法による養殖可能性を調査した。また技術面だけでなく、データセンターの立地や電力使用量などコスト面においても採算が取れるかを評価したほか、養殖以外の熱利用方法についても検討した。

19 東京都23区内の邸宅街に潜む火災リスク
  伊藤正太郎・中村成那(駒場東邦高等学校)
東京では、高台の地盤が安定した場所に戸建が数多く形成された「邸宅街」が各地にあり、その立地ゆえ自然災害のリスクは低いと考えられる。一方、戸建は消火器設置義務がなく、日本消火器工業会の調査で、消火器が設置されていなかったり、設置されていても期限切れのことが多いと示されており、火災のリスクが高いと考えた。また、大田区田園調布では高齢者割合が26.8%で、23区平均の20.5%(2024年1月1日時点)を大きく上回っているなど、邸宅街では高齢化が深刻で、火災発生時は初期消火が困難だと考えた。そこで、高齢者が初期消火をするのに必要な街区消火器が確保されているかを検討するため、GISを用いて各消火器がカバーできる範囲を可視化し、23区内の複数の区における邸宅街で分析を行った。その結果、自治体設置の街区消火器のみでは不十分で、自治体の負担も考慮すると、戸建における消火器設置と検査の推進が必要だと考えた。

20 「デジタル」×「リアル」で命を守る Vol.2 ~アプリ活用と聞き取り調査による多様な防災戦略の検討~
  上埜五喜・柴田心望・丸亀花菜・大塚彩穂衣・田上葵(宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校)
宮崎県内における,今後起こるであろう地震・津波を中心とした災害から命を守ることを目的として,先端技術(デジタル)と現地調査(リアル)の両面からアプローチを試み,宮崎県の沿岸地域の住民や行政機関を巻き込んだ研究を行っている。宮崎市青島地区において,ICTを使用した避難訓練を実施し,様々な避難経路や避難先のパターンの検証を行った。また,観光客への聞き取り調査を通じて,正しい避難場所を知っている観光客もいれば,避難場所について確認していない観光客もいるなど,観光客間での防災への意識についてもばらつきがあるという問題点が浮かび上がった。さらに,沿岸周辺での避難施設にも聞き取りを行ったところ,災害時に備えた恒常的な取り組みを行っていることがわかった。以上のことを受け,地域住民や行政職員との意見交換を交わし,唯一の答えに縛られずに,柔軟に対応策を検討することの重要性を改めて認識した。

21 小字の名称とその周辺環境の関連性について ~千葉県市原市を例に~
  兼久海翔(千葉県立千葉高等学校)
付近の地形や歴史を反映していると予想される小字は、文化保全や地域振興に重要な役割を果たし得るが、小字の持つ意義について定量データを用いて考察した研究は少ない。先行する自身の研究発表では小字の名称と周辺環境の関連について考察したが、主観的で信頼性に欠けた。そこで、今回の研究では具体的な数値データを用いて再考察することを目標とし、千葉県市原市を対象にeMAFF農地ナビや地名語源辞典を活用し小字の名称と位置を把握した上でより客観的に各小字の分類を行い、小字図や小字語彙の占有率の表を再作成した。さらに、小字の命名に影響したと考えられる地形や施設(河川や寺社)との距離を測定し、箱ひげ図を用いて可視化した。その結果、小字語彙の占有率が周辺の文化財や標高と強い関連を持つことや、小字は命名の際に意識された地形や施設に近接して分布していることが明らかとなり、小字の持つ文化的、社会的重要性が確認された。